第4章 リンスを忘れちゃいけません、の段。
「何度か見ているとはいえ…その袴を頭に被るのはどうにかならんのか?」
「これ被ってないと危ないんですよ」
ほら、刺さるから…ときり丸。
以前刺さった記憶のある土井先生はそれもそうだな、とため息をつきかけて、ピカッと思いついた。
「椿くんに見せよう!」
どんな反応をするだろうか?と土井先生は教室を飛び出していった。
「山本シナ先生に見せたときは剣山として花を生けてたけど…椿さんはどうかなぁ?」
「とりあえず、はかまは取っとけよ」
「う、うん…」
なんだか微妙な心境になりつつ、しんべヱは頭に被った袴を脱いだ。
「ん?」
なんだかすごくいい予感がして、椿は手鏡を取り出した。
紅をうっすら引いて、にっこり。
「よし」
たいして可愛くないお顔だけれども、ちょっとは可愛くなるはずだ。
いつ土井先生に遭遇しても大丈夫なように、椿は手鏡と紅を持ち歩いていた。
(事務員のおばちゃんだって紅を差してるんだもんね)
くの一教室以外では女っ気のまったくない場所での"若き"紅一点だからといって気を抜いていてはいけないのだ。
たとえ今、ほっかむりをして草抜きをしている最中だったとしても。
「椿くーん」
(きた…!)
予感的中だ。
土井先生の声が耳から入って胸を甘くときめかせる。
椿は慌てて被っていたほっかむりを取り、髪を整えて立ち上がる。
土井先生は教室の方から走ってきたらしいが、息一つ上がっていない。
「はい!」
「今忙しいかな?」
「いえ、全然大丈夫です」
「だったら、ちょっとおいで。面白いものを見せてあげよう」
「面白いもの?」
「ああ」
そう言って、土井先生が椿の手を取り引っ張って歩き始める。
(あ…手…)
きゅ、と握りこまれた手。
握り返した方がいいのか、否か。
大きな手は、チョークを扱うからなのか少しカサついている。
(どうしよう…)
心臓がドキドキして苦しい。