第4章 リンスを忘れちゃいけません、の段。
(な、なにその少年みたいな笑顔は…! 破壊力半端じゃないんですけど…!)
胸が爆発しそうだ。
椿は思わず胸を押さえた。
「リンスを忘れるとこうなるんだとさ。不思議なもんだ」
土井先生がしんべヱの髪の毛の真ん中辺りをコンコンと叩く。
コンコンって。
髪の毛が出す音じゃない。
「そ、そのリンスすごいですね…」
「「「………」」」
椿の言葉にしんべヱを除く全員がポカンと口をあけた。
「え、なに、私何か変なこと言いました?」
「あ、いや…そうじゃない…リンスが凄い、という発想はしなかったな、と思って」
そういやそうだな、こんな髪を普通の髪にさせるリンスって凄い気がする…土井先生はほう、と感心した。
「そういえば、しんべヱはリンスを家から持ってきてるんだよね」
「うん! 南蛮から取り寄せてるよ」
「な、南蛮から取り寄せ…?」
椿は唖然とした。
たかがリンス、されどリンス。
しんべヱに取っては死活問題かもしれない。
けれど。
「…なんかフユカイだなっ」
「なっ」
乱太郎ときり丸はしんべヱに背を向けた。
「………」
しんべヱはアゴに梅干しを作って涙を呑む。
そんないつものやり取りを無視して、椿は土井先生に尋ねた。
「鋼鉄より硬いって本当ですか?」
「ん? ああ…椿くんは四年の滝夜叉丸を知ってるかい?」
「あ、はい」
忍術学園に来てすぐの頃だったか。
四年生の授業を見学していたときに、随分目立っている子がいるな、と思ったのが彼だった。
おしゃべりが好きなようで、上級生の中では椿によく話しかけてくれる方だ。
「滝夜叉丸が得意としているのが戦輪という武器なんだが」
「あ、見ましたよ。あのワッカみたいなの、人差し指でくるくる~って」
「そうそう。それを弾き返したことがある」
「えっ! そうなんですか?」
「ああ。それで二年連続武道大会優勝者の滝夜叉丸に勝ったんだ」
「え! しんべヱくん凄い!」
「最終的にその年優勝したのはきり丸だったんだが…」
「一年生なのに、凄いですね」