第4章 リンスを忘れちゃいけません、の段。
「しんべヱ、そろそろ起きろよ」
「遅刻しちゃうよー」
身支度を済ませ、後は頭巾を被るだけとなったきり丸と乱太郎はぐうすかといびきをかくしんべヱを揺り動かした。
「うぅ~ん…」
「早く起きないと朝ごはんなくなっちゃうよ」
「朝ごはん…たべる!!」
乱太郎の"朝ごはんなくなっちゃう"の言葉に反応してしんべヱはもぞもぞと動き出した。
「あっ」
「あーあー、しんべヱまたリンスするの忘れたろ」
乱太郎の声にきり丸がしんべヱを見てみると、髪の毛が例によって剣山の如くそびえ立っていた。
「ほんとだぁ」
「ったく…これじゃまた頭にはかまだな」
リンスを忘れると髪の毛が逆立ち、がっちがちに固まるというしんべヱの変な寝癖…癖毛。
下手に触ると髪の毛が手に刺さるので要注意である。
過去にもリンスを忘れ、しんべヱは頭巾の代わりに頭に袴を被っていた。
仕方なく、今回も袴を髪の毛に被せることにした。
「しんべヱ、はなれて歩けよ」
頭に袴を被ったちんちくりんと一緒に歩く趣味はないぜ、とばかりにきり丸はしんべヱにそう言い放った。
「うわ~ん、らんたろぉぉ~」
「しんべヱ、もうちょっとはなれて」
「落乱1巻のときより仲良くなったと思ったのに…ぐすん」
30年前と同じ扱いにしんべヱは涙した。
「冗談だよ、しんべヱ」
「さっさと朝ごはん食おうぜ」
「うん…!」
乱太郎ときり丸の後を追い、しんべヱは食堂へ向かったのだった。
朝食を食べた後、三人は教室へ向かった。
「おはよーみんなぁ」
「おはよ…ってしんべヱ! またリンスわすれたのぉ?」
喜三太はじめ、は組全員に指摘されてしんべヱは照れ笑いした。
「そこ照れるところじゃないから…」
乱太郎の小さなツッコミはしんべヱの耳には入らなかった。
ガラッと勢いよく教室の障子が開く。
「「「土井せんせー! おはようございます!」」」
「ああ、おはよ…ぉぉっと?! しんべヱ…またか…」
は組のよい子のご挨拶に、にこやかに挨拶を返そうとした土井先生は袴を頭に被るしんべヱに一歩後ずさった。