第3章 火薬庫内は火気厳禁、の段。
「それから中で走らない、はしゃがない、前の人を押さない、それから――」
は組を相手にしているような調子の土井先生に、椿はくすくすと笑った。
(苦労してるもんなぁ…)
「…あー、おほん。それじゃ、中に入るか」
相手が二十歳を過ぎた大人だったことを思い出し、土井先生は咳払いをしてそう切り出した。
「ふふっ、はい」
土井先生に続いて椿は火薬庫の中に足を踏み入れる。
「足元段差になっているから気をつけて」
「はい、ありがとうございます」
差し出された手にドキドキしながら捕まって、椿は段差をそろりそろりと降りた。
「暗いですね」
「火気厳禁だからなぁ…。平助、伊助、いるか?」
「「は~い」」
ほんの少し離れたところから二人の声が聞こえた。
「手前の壷はもう測り終わったか?」
「はい、終わってます」
「そうか、ありがとう」
土井先生は一番手前の壷を持ち上げてみた。
「ふむ。大体これが壷満タンの重さなんだが…椿くん、持ち上げられるかい?」
「あ、はい…」
椿は手探りで壷の縁を掴み、ひょいと持ち上げた。
「えっと…三貫(約11kg)くらいでしょうか?」
「そうだね」
「これくらいならまだ余裕ですよ」
「そうかい? じゃあ、こっちの壷はどうかな」
「えと、どこですか?」
「こっちだよ」
暗がりの中、椿は土井先生の声のする方へ一歩、二歩と足を踏み出したそのとき。
「あっ…!」
ガツ、とつま先が小さな段差にひっかかる。
「きゃっ…」
ぐらり、と体が前のめりに傾く。
倒れる…!そう思って椿は咄嗟に体をぎゅっと固くした。
「っと…危ない…」
ぽす、と倒れこんだのは土井先生の腕の中。
「あ……」
逞しい腕が椿の胴周りを支えていた。
カッと一瞬にして全身が沸騰したように熱くなる。
「わ、あの、すみません…!」
慌てて体を起こすも、次の瞬間。
「大丈夫かい?」
すぐ近くで聞こえた声に顔が真っ赤になるのがわかった。
(きゃあああ! は、恥かしい!!!!!)
「気をつけて」
追い討ちをかけるような優しい声色と吐息に、ボンッ!と音がして。
顔から火が出た。
「……え?」
「「…え?」」
ジュッ! ジリジリジリジリ