第3章 火薬庫内は火気厳禁、の段。
「ん? もしかして何も聞いていないのか?」
「はい。とにかく土井先生のところへ行きなさい、と山田先生に言われまして」
「そうなのか…。んん、まぁ百聞は一見にしかずだ、まずは火薬庫へ行こうか。実験のことはまたそのときに話そう」
土井先生と二人、火薬庫への道を歩く。
(背、やっぱり高いなあ)
ちらちらと椿は左隣の土井先生を見上げる。
土井先生はかなり背が高い。
平均身長より7寸(21cm)ほど高いのではないだろうか。
椿も女子からの平均からするとほんの少し高いのだが、それでも随分見上げなくてはならない。
当初は見上げてばかりで首が痛くなってしまうこともしょっちゅうだが、今では全く苦にならない。
がっしりとした首周りと、忍び装束からほんの少し覗く鎖骨がなんとも色っぽく見える。
胸毛もじゃもじゃの兄とは大違いだ。
「今、火薬委員会は四人しかいないんだ。六年がいないから、五年の久々知平助が委員長代理をしてくれている。は組の伊助も火薬委員だ」
「久々知くん…あの、お豆腐が好きな子ですよね?」
「ああ、そうだ」
「どうしてそんなに人数が少ないんですか?」
「それは…まだ原作で火薬委員会設定の生徒がこれだけしかいないから、だな。きっと他にもいるはずなんだが…誰だかまだわからん」
「そ、そうなんですか」
高学年の生徒たちが出現するようになったのはここ数年なので、仕方ない。
「今、平助と伊助が火薬庫にいるはずだが…」
火薬庫の前に到着すると、扉から閂(かんぬき)が抜かれており、半分開いたような状態になっていた。
「火薬庫に入る前に確認だが」
「はい」
「火種はもちろん、水気のあるものも持っていないな?」
「はい、大丈夫です」
「鼻がむずむずしたりはしないか?」
「は、はい?」
「いや、くしゃみをされるとまずいんだ」
土井先生の脳裏には、しんべヱの大きなくしゃみと鼻水によって火薬が飛ばされたり、湿気ったりしたことがよぎった。
「大丈夫です…」
「暗いからと行って、明かりをつけるのもダメだ」
「はい、火種を持ってないので大丈夫ですよ」