第1章 思い出したくないこと *秀吉視点*
女中に三成が昼餉を食べないことを聞いた俺は、少し苛立たし気に三成の部屋へと向かっていた。
「おい、三成入るぞ」
三成からの返事はない。
待っても返事がない理由は容易に見当がつく。
まったくあいつはあれだけさんざん言っているのに…俺はしびれをきらしたように勢いよく襖を開けた。
「三成っ!!」
苛立ちが入り混じる大きな声が三成の部屋だけでなく、向かいの通りまで響く。
部屋にいる三成を見据えるとやはり昼餉が横に置いてあることに気付いていない様子。
書物だらけのわずかに空いたスペースに座り、銀縁の眼鏡をかけて書物に目を通している三成。
まあ、さすがに俺の声に気付いたようで、ゆっくりとこちらにきょとんとした顔を向ける
「秀吉様…?どうかなさいましたか?」
いつもの微笑み。
(杏は天使の微笑みと言っているみたいだが、もう俺にはこの笑顔があざとくみえる…)
どうしたじゃないだろう!!
俺は眉間に深い皺を寄せ、三成を見据える
「三成…お前のすぐ横にあるものは何だ?」
「?…これは…昼餉でしょうか?いつの間に…」
不思議そうに三成は首を傾げる。
「いただかないといけませんね。…ではこれを読み終えてから…」
(しまったっ!!)
そう思ってもすでに遅い。
視線を本に向けた三成は再び熱中してしまった。
俺としたことが…
俺は肩をすくめ、大きなため息を漏らす。