第5章 M×A for MJbirthday
A side
あの後、何を言っても先生は、
「俺が出すから」の一点張りで。
結局、全部先生が出してくれた。
おまけに、車を入口まで回してきてくれて、荷物まで持ってくれている。
「先生、ごめんね…。」
「もういいから。
ガキのお前なんかより、何倍も稼いでるから。
出世払いだと思っとけ。」
「…出世払い?」
頭にはてなマークが浮かぶ俺を見て、先生は、はぁーっと深いため息をついた。
「ま、いいから。
とりあえず、車に乗って。」
「あ、はい。」
助手席のドアをパッと開けられて、助手席に乗り込む。
その動作はすごく様になっていて、思わず見とれた。
…と同時に、妬いた。
慣れてるんだなぁ、こういうの。
先生のほうが年上だし、しかも格好いいからモテるだろうし、仕方ないって分かってるけど…。
自分にこんな感情があることに、初めて気が付いた。
恋って、もっと簡単なものなんだと思ってた。
キラキラしてて、幸せなものだと思ってた。
…こんな気持ちもあるんだ。
こんな俺って、どうなんだろう。
すぐにネガティブな方向に考えるのが俺の悪いクセだ。
分かってはいる。
恋にこんな厄介な自分を見出されるとは思ってもみなかった。
よほど暗い顔をしてたらしい。
先生が、
「どうした?」って俺の顔を覗き込む。
「あ、いや、大丈夫です。
運転お願いします。」
「ああ。
俺の家でいいよな?」
「…課題手伝ってくれますか?」
「教師に頼むことじゃねーだろ。
まぁ、免除されると思うよ?多少は。」
そんなこと気にする前に、自分の体調を気にしろと言われた。
「真面目なんだろうな、相葉は…。あんまり頑張りすぎるなよ。
頼れよ、俺の事。」
真面目なんて、始めて言われた。
体に気をつけろ、なんて始めて言われた。
俺の事を本当に心配してくれてる言葉ばかり、先生は俺に言ってくれる。
俺って、そんな風にしてもらえる人間なのかな。
それは分からないし、分かりたくもないけど、でも先生に愛されてるってだけで、前よりもずっと明るい気持ちになれるから。
俺は、愛されていい人間なんだ。