第6章 神様なんか、いない
遊んでいる俺のこと、
子どもを遊ばせていた母親がふたりで、ちらちら見ながら、こそこそ話しているのが目に入った。
何を話しているのか...
気になっていた俺の耳に、
ある言葉が届いた。
「...かわいそうにね..」
.....俺のこと知ってるんだ!
そう思ったら、もう心臓が苦しくなって、
汗が出てきた。
『この場から逃げなきゃ!』
『あの人たちから離れなきゃ!』
そう思う一心で、修の手を強く引いて、
急いで走り出した。
「にいたん...痛いよ..
しょおたん...待って...」
俺に引きずられるようについて来る、
修の声が、俺には聞こえなかった。
すると、
「櫻井!!」
俺の肩を掴む人が...
振り返った俺の目に飛び込んできたのは、
肩で息をする松岡先輩だった。
「櫻井...弟が...」
「えっ??」
慌てて修を見ると、泣きそうな顔で、
息を切らしている修が、不安そうに俺を見上げていた。
「...修、ごめん..」
「うん...」
俺は、修から松岡先輩に視線を移した。
松岡先輩......
映画の中で俺に、不意打ちのキスをしてきた人。
『そんな風には思えないから』と断って、
そのまま何となく気まずいまま高等部に行ってしまい、
久しぶりに会った。
......
「櫻井、久しぶりだな...」
「先輩...分かんなかった...かも」
...そう...松岡先輩は、凄く変わってしまっていた。
金髪に、ピアス...細く整えられた眉に着崩した制服は、一見して、ちょっと怖そうなお兄さんに見えた。