第5章 大人になるということ
しばらくして、中から看護師さんが出て来て、
「院長、おめでとうございます。男の子です。」
「大丈夫だったの?」
食ってかかるような俺に、看護師さんは優しく、
「大丈夫ですよ。お母さんも赤ちゃんも、
元気です...先に赤ちゃんが出てきますから..」
看護師さんの言葉が終わるのを待っていたように、中から、小さな透明の箱に入った赤ちゃんが出てきた。
それは、思っていたよりもずっとずっと
小さくて、動いているのが
不思議なくらいだった。
「父さん///」
心配で、父さんの顔を見ると、
急に医者の顔になった父さんは、
「バイタルは?」
「安定しています。お元気です。」
「そうか、ありがとう。」
俺は箱の中の小さな命を見つめていた。
.....俺の...兄弟...
...俺の...弟...
何て小さい手なんだ...
無意識に横にある穴から、そっと手を入れた。
すると、その小さな手が、細い指が、
俺の指をキュッと握った。
その力強さに驚き、
次の瞬間、喉の奥がグッと詰まって、
息が出来ないくらいに、
感動した。
こんなに小さいのに、
懸命に生きようとしている、
その生命の尊さと、美しさを感じて、
震えるほど感動した。
そして、この小さい手を、命を、
俺がしっかり守りたい、そう思った。
12歳離れて産まれた、
この世でたった一人の俺の兄弟...
何があっても守ってやりたい、
って、そう思った。
そんな俺の肩に、父さんがそっと手を乗せた。
俺がゆっくりと顔を上げると、
父さんは俺の顔を見て、何も言わずに小さく頷いた。