第5章 大人になるということ
病院に着くと、分娩室の廊下に父さんが座っていた。
「父さん!!」
「翔...来たか..」
「母さんは?」
「緊急オペになっったんだ...
産まれるよ...」
......オペ?オペって??
「大丈夫なの?赤ちゃんは?」
慌てる俺の肩に手を置き、
「大丈夫だ。破水して中の子どもの
血圧が下がっているから、帝王切開で出すことになった...きっと、大丈夫だから...」
そう言って、父さんが笑ったから、
俺は少しだけ安心した。
それから、ふたりで廊下の長椅子に座って、
じっと待った。
すると、父さんが独り言のように、
「思い出すな...翔が産まれるときも、
こうやって、同じように、
ここで待っていたっけ...
あれから、もう12年も経つんだな~...」
ぽつりぽつりとそう言った。
「...父さん...」
「産まれて、この手に抱いたときは、
嬉しかったな~...手が震えて、落としてしまうんじゃないかって、そう思ったくらい...感動したよ...」
.........
俯いた俺の拳に、涙がいくつも落ちた。
...愛されていた...
俺はちゃんと、父さんに愛されていたんだ...
涙が後から後から出て来て、
止めることが出来なくて、
俺は、肩を振るわせて泣いた。
父さんは、そんな俺に気付いたみたいだけど、
何も言わなかった。
...きっと、俺の気持ち、分かっていたんだと思う。
すると、中から、赤ちゃんの声が...
...産まれた??
俺と父さんは一斉に手術室の扉を見た。