第27章 君が描いた未来
【 雅紀side 】
翔が来てから、気分は穏やかで、満たされた日々だった。
でも、時々翔に電話が来ているのは分かっていた。
部長が抜けたことで、外来も病棟も混乱しているはずだ。
本当なら、翔はこんなところに居ちゃいけない人だ。
それが分かっていたから、彼から離れてここに来たのに...
明日になったら帰るように言おう...
明日になったら...
そんな風に思いながら、翔に甘えて過ごす時間が、
あんまり愛しくて...
どうしても言い出せなかった。
でも...
それも限界だよね。
もう十分だよ...翔とここで過ごした時間は、
神様が俺に最後にくれた贈り物だったんだ。
ハンドルを握る、翔の横顔をそっと盗み見た。
綺麗な横顔...
大好きな...大切なひと...
翔......
アイシテル...
今までずっと...これからも...
「雅紀~、着いたよ。」
「ここ~?」
「うん...あの時はペンションから山道を登ったけど、車ならその先に行って少しだけ下ればすぐなんだ...」
「そっか...」
車を降りると、翔が腰を落として背中を向けた。
「何?」
「ほら!おんぶしてくよ~。乗って。」
「いいってば、少しなら歩けるよ!」
「いいから!」
「だって、直ぐでしょ?歩きたいんだ...いいでしょ?」
先に歩き出した俺に、翔は慌てて着いて来て、腕を絡めた。
「じゃあ、ゆっくり行こう」
俺達は寄り添って歩いた。
腰に回された翔の手が、俺の身体をしっかりと支えている。
その腕の力強さに、泣きそうになる。
翔と離れるって決めた時、一生分の涙を溢してしまったから、もう泣かないって決めていたのに...
そっと気付かれないように鼻をすすった。
なのに、
「雅紀...泣かないで...涙で、星が曇っちゃうよ?」
何それ...
キザなこと言ってさ...
涙が頬を伝わった。