第27章 君が描いた未来
その日から雅紀とふたりの時間が流れた。
穏やかで、優しい時間...
体力を消耗しないように、散歩などは車いすで出掛けるのを、雅紀は嫌がったが、少し動き過ぎると苦しそうに息切れしたりするようになっていたから。
でも俺は、雅紀の車いすを押して歩くことが好きだった。
ふたりで並んで歩くよりも寧ろ、
なぜだか二人だけの空間な気がして。
それに、後ろから見る雅紀の髪が、少しだけ跳ねていたりするのを見るのも、何だか幸せだった。
雅紀は日に日に弱っていくようだった。
薬で押さえているせいで、痛みを訴えることはないが、眠ってる時間も多くなった。
病室で雅紀が寝ているときは、俺は仕事の電話をしていた。どんなに任せて来たと言っても、
全く離れてしまうと言う訳にもいかず...
電話での指示にも限界があって。
でも...
今の雅紀をここに一人で置いて行くなんてできない。
俺は、雅紀の白い横顔を見つめながら、これからの事を考えていた...
「...翔...?」
「雅紀...起きたの?ここに居るよ」
俺は雅紀の側に行って手を握った。
この頃少し微熱があるときがあって、今日も少しだけ手が温かかった。
時間が、ない...
「雅紀...星、これから観に行こうよ」
「星...?」
「そう、ドクターには許可を取ったよ。今夜は気温もいつもより下がらないんだ...行こうよ」
「うん...行きたい...連れてってくれる?」
俺と雅紀は、病院の車を借りていた。
雅紀を助手席に乗せ、シートを深く倒した。
「大丈夫だよ...今日は結構気分がいいんだ...昼間たくさん寝たからかな?」
「そっか...良かった...車で30分位だよ」
昼間から穏やかに晴れていたその日は、夜になっても風もなく、とても暖かい夜だった。