第26章 未来への地図
待っていても、雅紀は来ない。
でも、確かにあいつはここにいる。
この場所で、一人で逝こうとしてる。
そんなの...
そんなのダメだ!!
許さないよ、一人で....ひとりだけで...
雅紀....
雅紀.......おまえがいなきゃ、
俺は俺でいられないんだ。
お前だってそうだろう?
なのに、どうして?
その時、散歩や日光浴を終えて部屋に戻ろうとする患者さんたちに、逆流するように見慣れた、薄茶の髪が見えた。
雅紀////
一人ベンチに座って、
脚の上に両肘をついて、その上にちょこんと頭を乗せた雅紀は、
遠くを見るような目をして、ぼんやりしている。
俺はゆっくりと彼に近付いて、そっと声を掛けた。
「雅紀..」
「翔!!...どうして!?」
驚いて固まる雅紀の側に行き、その愛しい塊をそっと抱き寄せた。
「俺から逃げられるとでも、思ってるの?」
「......」
「雅紀がどこに隠れたって、どこに逃げたって。俺にはちゃんと分かるんだ....」
「.....」
「...雅紀...ごめんね。寂しかっただろう?心細かったよな?
.....もう一人にしないから...ずっと...ずっと雅紀の側にいるから」
「....翔、俺...」
サラサラの髪を優しく何度も撫でると、雅紀の手が、俺の腰に回ってきた。
俺はその手を引き寄せ、強くその頭を胸の中に抱き締めた。
中庭で抱き合う俺たちを、
暮れなずむ夕闇が、そっと隠してくれた。
俺の胸に顔を埋め、声を殺して肩を震わせる雅紀....
もう....もう二度と離さない。
全てを捨てて旅立とうとしていた雅紀....
「身体が冷えるから、中に入ろうか?」
そう言う俺に、雅紀は小さく頷いた。