第26章 未来への地図
一人の部屋に、俺は立ち尽くした。
この瞬間、全てを悟った。
雅紀が今ここに居ない現実。
普通なら、どこかに出掛けたのかな?とか、ちょっとコンビニまでビールでも買いに行ったのかな?
そう思って気にもしないだろう。
でも...
いつもよりも、少しだけ綺麗に整頓された部屋の中。
畳まれて積まれた洗濯物の山が、今日はなくて、タンスの中にきちんとしまってあるんだな...
そう気付いたこと、雅紀が消えたことと結びついて。これが、夢なんかじゃないってことを、俺に教えている。
馬鹿みたいに突っ立ったまま、部屋の中を見廻していた俺の目に映ったのは、一枚のメモ...
壁に掛けられたテレビの横...
チェストの上にきちんと置かれたそのメモを、俺は恐る恐る手に取った。
『翔、手術お疲れ様。少しの間留守にします
冷蔵庫に焼きうどん作ってあるから食べてね』
たったそれだけの...
素っ気ないメモ...
その四角い用紙を、じっと見つめていた俺は、
弾かれたように携帯を出した。
そこからは、無機質な女性のメッセージが流れた。
......電源が、落ちている。
雅紀...
どこに行ったの??
脳裏に、小さな咳を繰り返す雅紀の背中が浮かんだ。
あの咳って......?
足元から砂が崩れていく感覚...
立っていることが奇跡なんじゃないか。
そう思えるくらいに、俺の気持ちは乱れていた。
雅紀...
具合.....悪かったのか?
俺は何で気付けなかった?
雅紀が単なる気管支炎なんかじゃないって。
こんなに側にいて...
彼がどんな薬を飲んでいたかさえ、知ろうとしなかった。
...確かめなかった。
俺は......
震える指で、三宅先生に電話をかけた。
暫くコールが鳴り、
「どうした?翔先生...」
携帯からは、三宅先生の、のんびりした声が聞こえて来た。