第26章 未来への地図
「今日は華岡様の手術でしょ?」
朝食を済ませてコーヒーを飲んでいると、
片付けをしながら雅紀が聞いた。
「そうなんだ...俺は大丈夫だって言ったんだけど、親父が心配して、今日のオペは一件だけなんだ...」
「午後一~?」
「そっ!だから余裕だあるんだ~」
「そんなこと言ってて、どうなの?」
「うん...肺癌のステージⅢ...転移はあるけど、俺は取り切れるって思ってるよ...」
「...そっか...流石、翔先生だね..」
「実際、開けて見ないと、ってとこもあるにはあるんだけどさ...」
「まあね~...」
「...雅紀...こっち来て」
俺は、キッチンで洗い物をする雅紀を呼んだ。
「な~に~?」
「いいから~...」
エプロンで手を拭きながら、雅紀が出て来た。
「今日は何してるの?」
俺は自分の膝をポンポンと叩き、そこにおいでと手招いた。
「...何って...掃除と、洗濯と...後は買い物、かな~?」
雅紀は、話しながら俺の脚の間に入ってきた。
俺は雅紀を横から抱き締めて、彼の胸に顔を埋めた。
「何~?翔...」
「ん、充電❤...パワー貰うの♪」
「...翔...」
「今度さ、旅行、行こうよ♪」
「旅行~?どこへ?」
「そうだな~...雅紀はどこに行きたい?」
「翔、忙しいじゃん...近場で温泉とかは~?」
雅紀は俺に気遣ってそんなことを言う。
「じゃあさ、露天風呂付きで、超豪華な温泉に行こうよ!」
「また~...露天風呂で、エッチなことしようって思ってるんでしょ~?」
「ふふっ、バレた~?」
そんな俺のこと、雅紀は眩しい笑顔で笑っていた。
俺は雅紀の匂いを、胸いっぱいに吸い込んだ。
いつもの二人の時間が、
優しく、
流れていた。
その夜...
家に帰ると、
雅紀はいなかった。
綺麗に片付けられた部屋に、
待っているはずの雅紀は、いなかったんだ...