第26章 未来への地図
「どうぞ...」
「失礼します」
「お加減はいかがですか?」
明日に手術を控えた華岡さんはベッドで横になり、窓から空を眺めていた。
「...まあまあ、だな...」
「手術...不安ですか?」
すると彼は、ゆっくりと俺の顔を見た。
「...翔先生...今は、患者にしっかりと病名告知するんだな~?」
「そうですね...隠しても、飲んでいる薬を検索されたら、一発で分かってしまいますからね~」
「ははは、情報化社会っていうのも、厄介なもんだな...」
そう笑った華岡さんは、どこか悲しげだった。
「先生、私はここに来る前に遺書を書いてきたよ...どうなるか分からないからね~」
「...華岡さん...」
「翔先生が、手術を大成功させても、退院するときにベッドからうっかり落ちて、そのまま...なんてことも、無いとは限らない。」
「そんなことは...」
「例えばだよ...」
俺は彼を励ます言葉を探していた。
すると、
「昔、最後まで癌とは知らないで死んでいく父親を演じたことがあったよ...
その時は、自分は知らないまま死ぬのは嫌だな、って、そう思っていたけど...」
華岡さんは、淋しげに笑う...
銀幕の大スターも、病院では、ただの患者なんだ。
「知っていてよかったのか、知らない方がよかったのか、今となっては分からないが、覚悟はできているつもりだよ...」
「精一杯やらせていただきます...」
「任せているよ...イケメン先生..」
......俺だったらどうだろ?
実際に自分がその立場になってみないと、本当の気持ちなんて、分からないんだろうな~。
その午後、手術に携わるスタッフと、最終カンファレンスを行った。
大スターでも、そうじゃない人でも、
俺が出来ることは、患者に精一杯向き合って、出来ることは全て行うということ...それだけだ。