第26章 未来への地図
翌朝。
翔がこっそりと布団を抜けだす気配で目が覚めた。
...ああ、俺眠っていたんだ。
『頑張って』そう送り出したかったけど、
夕べあんなに泣いた後だ。
目が腫れているに違いない...
このまま、寝たふりを続けよう。
暫くして、寝室を出て行った翔がそっと戻ってきた。
「よく寝てるみたい...雅紀、行ってくるね」
そう言いながら、翔が俺の髪にキスをした。
......いつも、そうやって出掛けていたのかな?
寝たふりして送り出したことなんかないから、
まあ、本当に寝ていたことはあったけど。
翔が、こんなに俺を大事に思ってくれていることを、このタイミングで知るなんて...
ドアが閉まり、足音が遠くなるのを布団の中で聞いた俺は、また涙が滲んだ。
でも、悲観してばかりはいられない。
もしかしたら、俺の勘違いとか、思い過ごしかもしれないし。
ともすれば、萎えてしまいそうになる気持ちを奮い立たせて、俺はベッドから起き上がった。
風間の病院までいかなきゃ...
翔には検査入院の話は勿論していない。
風間にも強く口止めしてある。
まあ、最も。
翔も、俺と風間を直ぐには結びつけないだろう。
昔ならともかく、最近は疎遠になっていることを知っているから...
入院の荷物を小さな鞄に詰めて、俺はマンションを出た。
車で行こうかとも思ったけど。
もしかして、そのまま入院になるなんてことになったら困るし、時間も読めるから電車で行くことにした。
風間の勤務する病院は、都心にあるマンションからは、快速に乗っても1時間半はかかる。
普段、割と近場で動いている俺にとって、ちょっとした小旅行だ。
平日朝の東京駅は、通勤の人や、ライブに来たのだろうか?同じ鞄を肩から下げた若い子たちで混雑していた。