第23章 命の重さ~second~
その日はそのまま、仕事に入った。
いつものように朝の回診をし、
患者さんたちと他愛もないことを話し、笑って...
田村さんが逝ってしまったことを、悲しんでいる暇もなく、他の患者さんたちを放って置くこともできず...
俺は日常に戻ることを余儀なくされる。
......午前の外来が終わったのは、2時近かった。
「翔先生、田村さんのご家族の方が、先生にお話があるって待っていられますが...」
「そう...じゃあ、ここに...」
暫くして、娘さんが診察室に顔を出した。
泣きはらした真っ赤な目を見て、胸が詰まった。
「お待たせしてしまって...」
そう声を掛けると、娘さんは、深々と頭を下げながら、
「今朝はありがとうございました...先生には、本当によくして頂いて...感謝しています...」
感謝なんて...
「いえ...残念です...元気になってきていたのに..」
すると彼女は、バックから白い封筒を出した。
「これ...」
封筒の表書きには、『櫻井翔先生へ』と書かれていた。
その文字をじっと見つめる俺に、
「病室を片付けていたら、これが出てきました...父が書き残したものです...」
ゆっくりと手を伸ばしてその封筒を受け取る。
手が...震えるのが分かった。
「父はいつも、先生の自慢をしていました。すごい先生なんだって。感謝しているって...毎回そればかり..」
「止めてください!...自分は..」
「ありがとうございました...先生に診ていただいて、先生と出会えて、父は幸せでした...」
何度も何度も、感謝の言葉を繰り返し、
彼女は帰っていった。
俺は、暫く、封筒を見つめたまま、中を開けることができなかった。