第23章 命の重さ~second~
「翔先生。お願いって聞いてもらえるのかな~?」
田村さんの急な申し出に、俺は少し驚きながらも、
「何ですか?俺にできることなら、何でも...
彼女を紹介して欲しい、とかだとちょっと...」
「ハハハッ...それはまたお願いするよ...」
「じゃあ、何でしょう?」
「...私は10年も前に妻を癌で亡くし、それからしばらく一人暮らしでね...」
「淋しかったでしょうね...」
「それを、救ってくれたのが、太郎で...」
太郎?
お孫さんかな...?
「太郎は私にとっては、生き甲斐でした。
ひとり暮らしも、太郎がいるだけで、淋しくなかった。
外に出るのが億劫だった私も、太郎のためにと朝晩歩くようになり、足腰も丈夫になったくらいで...」
ちょっと待った!太郎ってもしかして...
「あの~...太郎って...?」
「柴犬です。今は娘の家に預かってもらってるんですよ...でも、夕方になると玄関の方を見て、私が来るのを待っているらしくて...」
「柴犬~...そうですか、太郎...」
「あ、写真見ますか?」
そう言って、田村さんが携帯の写真を嬉しそうに見せてくれた。
犬...病院には、ちょっと...かな~...
でも、田村さんの元気の元なんだし...
「無理ですよね...動物を病院に連れてくるなんて...娘にも、ダメに決まってる、って怒られてるんです。」
そう笑った田村さんの顔が、胸に刺さるようで。
俺は思わず、
「大丈夫です!きっと連れてきますよ!約束します」
と言ってしまった。
その時の田村さんの嬉しそうな笑顔。
俺は、どうやってベッドからあまり遠くには行けない田村さんと、愛犬の太郎を会わせようかと、その日一日考えていた。