第21章 旅立ち 〜departure〜
【 翔side 】
露天風呂といっても、そこはホテルの最上階にある、半野外のような場所で。
それでも、いろんな種類の風呂がたくさんあるので、かなり広いスペースになっていた。
「翔!こっち来て〜...ほら」
雅紀が興奮気味に指差す先には、
厚い雲の下に、富士山が顔を出していた。
「お――――!!すげぇ〜!」
.....たかが富士山。されど、富士山なのだ。
日本人って、なんで無条件に富士山が好きなんだろう...って思う。
この天気じゃ、絶対にダメだって思ってたのに。
海の上に、霞みながらも姿を見せてくれた富士山を、
風呂の中から、しばし無言で眺める。
「綺麗だね〜...明日は晴れそうだね」
そう笑った雅紀の顔に、何だかキュンときた俺は、電光石火の早業で、
雅紀の頬にキスをした。
慌てて頬を押さえ、周りをキョロキョロする彼が可笑しくて、俺は思わず笑ってしまった。
すると。
キョロキョロしていた雅紀が、
今度は急に近付いてきて、
俺の唇を盗んで離れた。
「ちょっ!雅紀///」
今度は焦るのは俺の方。
慌てて周りを見回していると、
「大丈夫♪ちゃんと確認したから(^-^)」
って....
確かに。
露天風呂の俺たちから見えるところには、奇跡的に誰もいなかった。
いつ誰に見られるか分からない、
っていうスリルが、堪らない。
俺たちは見つめ合って、ゆっくりと近付いて
もう一度キスをしようとした、
その時、
「パパ〜!こっちのお風呂入っていい〜?」
子どもの声で慌てて離れた俺たちは、
不自然なほどの距離をとっていた。
.....邪魔が入ったぜ!
ちらっと雅紀を見ると、
雅紀も苦笑いだった。