第14章 すれ違う中で
夕方、出来るだけ早く帰ると、
雅紀は驚いたような顔で俺を迎えてくれた。
「翔...早かったね?夕飯まだ用意してないよ~」
「じゃあ、食べに行こうよ!」
「えっ?でも...」
俺は、少し強引に雅紀と外に出た。
雅紀はそれでも、嬉しそうについてきた。
「何食べたい?奢るよ♪」
「え~、いいよ、割り勘しよう」
まあ、いつも雅紀はそう言うから、分かってたけど。
「昨日、遅くなちゃったお詫びだから..」
俺のその言葉に、雅紀は、一瞬眉を顰めたけど、直ぐにいつもの太陽みたいな笑顔になって、
「じゃ~、すげえ高い物にしちゃおっかな~♪」
と言った。
だから、雅紀の気持ちが、どんな風に動いたのか、この時の俺には分からなかった。
高いもの、とか言いながら、雅紀はどうしても牛丼が食べたいと言った。
寿司に行こう、っていう俺に、頑として牛丼と譲らないので、大盛りの上に、具1.5倍にして生卵を付けた。
雅紀は大盛りの牛丼を本当に美味しそうに食べた。
帰り道。
こっそり手を繋いでみたら、雅紀も握ってくれ、
俺たちは、わざと人気の少ない道を選んで、歩いた。
雅紀の実習の話を聞きながら...
前から人が歩いて来ると、慌てて手を離して、居なくなったらまた繋ぐ...そんな作業が、照れくさくて顔を見合わせて笑い合った俺たち...
隣にいる雅紀の体温が、嬉しくて、
...幸せだった。
だから。
雅紀の心に、小さなわだかまりの灯が消えていなかったことには、全く気付かなかったんだ...
その灯は、大きく燃えて、身体を焼き尽くさないと、消えない灯だってことも......
......その夜は、ベッドで手を繋いで眠った。