第11章 目指す道
その夜、親父の書斎に呼ばれた。
「翔。今日心筋梗塞の患者の救命措置をしたそうじゃないか?
素晴らしい息子さんがいて羨ましいと、あそこの院長から電話があったぞ」
親父が嬉しそうに俺に話した。
「その事なんだけどさ、親父...」
俺は思いきって、将来のことを話してみようと思って、向き直った。
親父は、ソファーから俺のことを真っ直ぐに見上げた。
「俺、医学部に進学しようと思う」
「.......翔...」
「俺に向いてるかどうかは、正直分からない。
でも、やってみたいって、そう思うんだ」
「そうか...分かった。
頑張れよ!応援してるぞ」
「うん...」
親父は、頑張れと、ただそれだけ言った。
それが俺には、逆に嬉しかった。
病院の後継ぎだと、回りにはいつも言われてきた。でも、親父は決してそれを押し付けることはなかった。
俺の将来を決めるようなことは、今まで
絶対にしなかった。
それが俺には有り難かった。
『医者になれ』そう押し付けられたら、
きっと俺は、どんどん医師と言う職業から遠ざかっていってしまったのかもしれない。
そして今日、たまたま出くわした出来事が、
モヤモヤとしていた自分の将来に大きな一石を投じることになった。
『誰かの役に立つ仕事がしたい』
助けられる命があるのなら、
俺ができることがあるのなら...
そのために一生懸命勉強して、
医者として、一人で立って歩いて行けるように。
気持ちは、何だか晴れ晴れしていて、清々しい...
明日雅紀に、話したい。
一番に顔を見て伝えたい。
俺は携帯で、雅紀と明日合う約束をした。