第8章 イノセント
その時...
ドアを控え目にノックする音がした。
俺は慌てて本を枕の下に入れた。
「はぁ~い...」
「お邪魔します...雅紀...」
翔だ!!
トイレとシャワールームがある場所の壁がワンクッションになっているので、部屋の入口は直には見えない。
「どうぞ~、翔、早かったね」
そう声を掛けても、彼は顔を見せない。
...あれっ?...どうしたんだろう?
「翔?...何やってんの~?」
不思議に思い、身を乗り出したその時、
おずおずと翔が入ってきた。
その姿に、俺は言葉も出なくて...
しばらく口を開けて彼の姿を見つめていた。
学校帰り何だろう..制服と....
いや、それよりも..
「翔...髪の毛...」
「...うん...戻した...」
「.........」
感動して、息を吸うことも忘れてる俺に、
「なんか、久々だから、変だわ~...」
翔は口元を少しほころばせて頭を掻いた。
「翔!!!もっとこっち来てよ!よく見たい!」
興奮気味の俺に、彼はゆっくりと近づいてきた。
...それでも、俺の手の届かない微妙な距離で立ち止まる。
「もっと側に来てよ!ほらっ!ここに..」
俺はベッドの端をポンポン叩いた。
黒髪の翔は、前に戻ったみたいで...
長かった襟足もすっきりしていて、
どっからどう見ても好青年!!
...言い方、親父みたいか?
でも、ホントに昔の翔のそんまんまで。
俺は感動で震える手で、翔の髪をそっと撫でた。
「俺が、可哀想って、そう言ったから?」
俺の質問に、
「...もう、何か飽きてたから、切っただけだよ」
照れくさいのか、翔は目を反らせてそう答えた。