第7章 寵愛(ティキ)
出ていくティキを止める間も無く扉は閉まる。
なんてこったなんてこった。
ノアを治療してしまっただけでも処分ものだろうに、そのせいで動けなくなってしまうとは。
足は動くが持ち上がらない。手もだ。
力が入らない…
はぁ、と思わずため息が出る。
「死んだと思われてたりして…」
ホームのみんなの顔がよぎる。今頃どうしているんだろうか。命懸けで戦っているのだろうか。だとしたら余計に、私はこんなところで何をしているんだろう…
「お待たせ。」
静かに開かれたドアから料理ののった皿を片手にティキが顔を出す。甘いマスクに白いシャツ。肘に手にコップやらお皿やらをのせているにも関わらず、堂々と安定感のあるその姿はまるで高級料理店のウェイターの様だ。
「嫌いなものはある?」
「……いいえ。」
「良かった。はい。」
スフレをすくったスプーンをそのまま口元まで運ばれる。
「あの…」
「なんだ?腕は動くのか?」
「……いえ」
確かに美味しそうだけど、ここは敵陣で、初対面とはいえつまりは彼も敵なのだ。
本当にこれを口にしてしまっていいのかと考えているのを察したのか、ティキは私に向けていたスプーンを自分の口へと運んだ。
「気持ちはわかるけどさ。このとおり毒とか変なもんはいれてないよ。さっきも言ったけどそうするチャンスはいくらでもあった。でもしなかった。オレはあんたのこと結構気に入ってんだ。」
だからこのあともゆっくり話がしたい。
そう微笑む彼はもう一度スフレをすくい、それをこちらへ向けてくる。
「……」
今はとりあえず従おう。お腹もすいたし、体力をつけなければ。
「いただきます。」
そう言ってスフレを口に含めばシュワっとした食感とケチャップの味が口に広がった。