第7章 寵愛(ティキ)
「あちゃーってことは俺がノアだとは思わなかったんだ?」
「途中でもしかしてと思ったんだけど半分くらい治した後だったしやけくそで。」
だって私が治してる時はなかったんですよ。その聖痕。肌だって白かったし。ずるくない?
「ずるくはないだろ…そうか、やけくそか。」
後悔しているか?
意地悪そうな笑みを浮かべ、ティキと名乗った男は顎に手を添える。振り払いたいところだがイケメンにされる分に悪い気はしないしそもそも身体が思うように動かない。
「…してないよ。ノアと話をしてみたいと思っていたし。」
ただ、自分の身体が動かない今は少し怖いかな。素直にそう告げればまっすぐとした目でティキはこちらを見る。
「それ。気になってたんだよね。言っとくけど俺、何もしてないよ。大方イノセンスの副作用だと思うけど今あんたどうなってんの?」
「…その…一見治癒能力に見えるけど微妙に違って…正確には触れた人間の自然治癒力を活性化させてるの。そのとき本来治すのに使う体力の分を私が負担するんだけど…」
AKUMAを倒すときは逆に自分が受け持った分の体力をイノセンスと一緒にAKUMAに送り込むことができる。が、そこまでは言う義理はないだろう。
言葉を濁しながらティキの顔を伺えば、思っていた以上に真剣な顔で聞いていてくれていた。長いまつげと涙ぼくろ、少し伏せられたその目は酷く妖艶で、うっかり見惚れてしまうほど。
「なるほどな…本来なら自然治癒に数ヶ月かかる怪我の分の体力を引き取ったから1ヶ月も寝てたのか…」
「そうそう…ってえ?!1ヶ月?!」
「1ヶ月。寝てたぞ。」
「ウソでしょ?!」
正直このまま起きないかと思ったから良かったとティキが微笑むがそれどころではない。さっきまでトロンとしていた脳が突然ぎゅっと縮むかのようだ。
「わ…私のゴーレムは…?」
「壊したよ。連れてくるわけにも行かないからな。」
「ですよね!」
どうしよう!
1ヶ月!!!!!
教団からしたら突然の音信不通!行方不明!
クロス元帥じゃあるまい!
「かえ…帰らなきゃ…!」
「その身体で?」
「無理です…!」
嘆く私とは裏腹にはははとティキは笑う。
「飯、食えそうだな。なんか持ってくるわ。」
「仮にも敵からのご飯はさすがに…」
「殺すスキなら今まで山ほどあったよ。まってな。」