第6章 まずは触れてから考えよう2(コムイ)
「えっ」
と上から声が降ってくる。
その顔を見る勇気は私にはなかった。
今まで、恋心に気付いてから今日まで、する気はなくとも何度かシミュレーションした告白は、想像よりも甘くないシチュエーションであっさりと口から出た。
「その…一方的ですみません!でも自分にけじめつけたいっていうか…えっと…」
「まって!」
無言の間に耐えられず余計なことを口走ったところでガッと肩を掴まれ、ただでさえうるさい心臓が余計に脈打つ。
恐る恐る顔をあげればカチリと目が合った。
「いや…沙優くんは通信班の子が好きなんじゃないの?」
「え?」
「え?」
2人して間の抜けた声が出る。ガッシリと掴まれている両肩に意識が飛び散ってはいるがなんとなく誤解されていることはわかった。
「えっと…確かに通信班の人に告白されましたけど、もう断ってます。」
「え…そう…なの?」
通信班の彼には恋心を自覚した後、改めて好きな人ができたと断った。以前、室長に見られて嫉妬されたいとか思っていた自分を少し殴りたい。
でも、これは
肩を掴む手に加わる力に、小さな期待が生まれる。
「…君はもう彼が好きなのかと思ってた。」
「みたいですね。」
「かっこ悪いね…ずっと煮え切らなくて、先までこされて…」
室長の手が優しく私の頬を撫でた。
「……キスしてもいい?」
「どうぞ」
短い、優しい口づけが落とされる。
唇に残る感触がもう一度と急かす様にじわじわと騒がしい。
「好きだよ、沙優くん。」
胸の奥がゆっくりと暖かくなる。
あれだけ冷たいと感じた夜風ももう心地よいものでしかなかった。