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そうして君に落ちるまで

第6章 まずは触れてから考えよう2(コムイ)







いつもの白衣を脱いで、中に着ているチャイナ服だけの室長はなんだか新鮮だった。

背が高いのに加え細身の身体にタイトな服がよく映える。とはいえ細く見えても自分を抱きしめているときの腕の強さ、体の幅は間違えなく男性のものだった。

心臓が脈打つのを自覚する。
やばい…改めて見るとめちゃくちゃかっこよく見える。

アジア人特有の艶のある黒髪と黒い目、よく見るとリナリーの兄であるだけあって本人も美形だ。

月明かりとささやかな階段のライトに照らされた瞳は少し驚いた顔でこちらを見つめている。


「よくここがわかったね。」

「何ヶ所か思い当たるところ回ってみてたんですけどビンゴでした。前に、外階段の踊り場が好きって言ってたし」

「……言ったっけ?」

キョトンとした顔の室長は本当に覚えていないようだった。無理もない、私がそれを聞いたのは私が入ってすぐの新人の頃だ。

静かに階段を登って室長の隣に並ぶ。柵はあるものの下を見ると流石の高さに恐怖を覚えるので視線を夜空へとそらした。

「新人の頃、私が教団内で迷子になった時に室長が迎えに来てくれて、せっかくだから穴場スポットを教えてあげるなんて連れてきてもらったんです。あの時は気づかなかったけど、多分サボりの口実に。」

覚えてます?と聞くとそんなことあったっけ?と真剣に思い出そうとする顔に自然と口元が緩む。

「静かな夜の風とか空気が気持ち良くて、教えてもらってから時々自分でも私の部屋のフロアの踊り場に出たりしてたので、もしかしたらって思ったんです。」

あの時、サボりの口実ももちろんあったろう。けれど大人になって職場で迷子になるなんてと恥ずかしくて落ち込んでいた私を励まそうとしてくれていたのももちろん感じていた。自然と居心地の良い空気を作ってくれる優しいこの人が上司でよかったと思えたあの日は、私にとって思い出すとホッとする好きな記憶だ。

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