第6章 まずは触れてから考えよう2(コムイ)
あれから何度も頭をかすめた。
彼女は通信部の彼のことが好きなのだろうか。
彼でなくとも、他に誰か特別に想う相手ができたのか。
本当にあの時はタイミングが悪く僕に気を裂く余裕がなかったのか。
それはそれで気になるところだが、誰にだって機嫌の悪いときや人とあまり話したくない時はある。
いずれにせよ、本人に確認しなければ分からないことだ。
憶測しようにもあれ以来忙しさのあまり、お互い仕事モードでしか顔を見ることはなかった。せめて食事の席や出勤のタイミングで会えれば良かったのだがそれもなかった。
…会いたいな。
会って、どうでも良い話をしたい。
無言で隣に並ぶだけでも良い。
ただ傍に彼女を感じて、ただの僕がそこにいるだけを許されたい。
欲を言うなら腕の中に閉じ込めて僕だけのものにしたい。
それでも、同じくらい会いたくない。
あれから短くない間が空いて、彼女の気持ちが他の誰かものになってしまっていたら
「ごめんなさい。好きな人ができたので」
そんなふうにけじめをつけられてしまったら
僕はきっと、ごめんねと謝ることしかできない。
タンタンタン
堅い階段を登る音に体がビクッと跳ね上がる。
「え?」
非常階段なんて、僕のように踊り場にでて風に当たったり、喫煙者がタバコを吸う事はあってもそうそう本来の目的で、移動手段に使う人はいない。
まさかおばけ?
いやそれよりも先に頭によぎったのは
「室長、ここにいたんですね。」
安堵したように、会いたくて会いたくなかった彼女が微笑む。