• テキストサイズ

そうして君に落ちるまで

第6章 まずは触れてから考えよう2(コムイ)







カシュッと缶を開けると少し冷たい風が顔に触れた。

化学班の大仕事がひとつ片付いたところで今夜は打ち上げとなっている。
僕の急ぎのチェックや他の仕事もキリのいいところまで終わらせることができているので、みんなの輪に心置きなく突撃することも叶うのだがなんとなく気は進まなかった。

無論、彼女のことだ。
別に飲み会に参加しても彼女とはみんなの前では普通に上司と部下として接しているのだから問題はないだろう。

今回は彼女が、というよりかは飲みの席で彼女との関係を突かれるのが嫌なのだ。

僕の執務室から手を繋いで出てしまったあの日、見られた数名には「足元が悪く転びそうになったのでエスコートしてもらった」なんて苦しい言い訳を沙優くんはしたが、噂はそこまで伝えてくれない。

当然のように室長である僕を知らない人間はこのホームにはいないわけで、誰もが共通で知っている人間の噂はすぐに、広範囲に広まる。

結果、歩く先々で「沙優とつきあってるのか?」と聞かれる羽目になり、リナリーにさえ「どうなの?」と詰め寄られた。

可愛らしく、それはもう楽しそうに目を輝かせる最愛の妹に、まさか「合意なのを良いことにけじめも着けずキスだのハグだのしてます」だなんて死んでも言えるわけがない。ましてや僕から手を出したなんて。

ただ、ただ今はそれ以上に
「付き合っているのか?」と周りに問われたときに「違います」と否定する彼女の顔を見たくなかった。呆れて冗談を流すでも、笑顔で「まだそれいっているんですか?」でもなく、本気で、気まずそうに否定されたら…

それが怖くてこんなところまで逃げてきた。

化学班のラボのあるフロアではなく、僕専用のフロアから出た非常階段。
1m四方の小さなこの踊り場で時折風に当たるのが好きで、誰にも見つからずに1人静かに飲むにはうってつけだった。



/ 85ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp