第6章 まずは触れてから考えよう2(コムイ)
なんで通信班の子がここに…?
ボンヤリとそんな事を思ったけれど、見ていたらすぐに気がついた。彼の視線は完全に沙優くんに向いている。
瞬間、胸がぎゅっと詰まった。
いつから?いつから彼女をあんな目で見る人が現れた?
いや、元々そういう人物がいるのは知っていた。仮にも室長である身。ホームの人の事はよく見て知っているつもりだった。
でも、通信班の彼と沙優くんがあんな風にわざわざラボで会話をするような仲だったなんて、あんな視線を送る仲だったなんて知らない。
まさか
ふと、触れようとしたときの彼女の様子を思い出す。
あれは拒絶だったんじゃ…
目の前の景色がワントーン暗くなったかのようだった。
彼女は彼のことをどう思っているんだろうか。
和やかに会話するその笑顔がいつもと違うようには見えない。
けれども
僕にはどんな顔をしてたっけ…
抱きしめているとき、キスをしているときのあの熱っぽい視線は、本当に僕だけに見せるものなのかと考えたところでのどが詰まる。
僕だけに見せていると思っていた表情全部、僕が彼女を特別に見ているから見えていたものなのかもしれない。まさかあんなキスだのハグだのはしてないにしても、僕に向ける笑顔や視線全て、他の人へのものと変わらないのかもしれない。
『でも、室長じゃなきゃダメなのかはわからないけど、室長がいいってのはあります。』
そう言っていた彼女はもしかしたら、「その人じゃないとダメ」な人を見つけたのかもしれない。だとしたら、
だとしたら僕はどうしてもっと早くこの気持ちに気づかなかったんだろう。彼女が僕を見てくれている間に、どうして彼女を捕まえておかなかったのか。
不安と後悔の言葉ばかりが頭をめぐる。
喉から胸にかけてが酸素を拒絶しているかのように息がつまる。
あぁ、これは、ここはしんどいな…
一歩、二歩と後ろへ下がって、自室のドアノブをゆっくりと押した。