第3章 まずは触れてから考えよう(コムイ)
「んっ……っ」
室長、と呼ぼうとしても既に舌を絡め取られていて、それは声になる事はなく、音が漏れる程度しか許されなかった。押し返そうと肩を手で押しても、より強い力で頭と腰を引き寄せられる。
何分かもわからない間、きっと実際には取るに足らない時間だろうけれど、それは随分と長い様に感じた。
ようやく口が離れたかと思えばそのまま首筋にキスをされ、生暖かい舌がゾワリと這う。
「……っ室長…っ」
一度落ち着いてくれとかけた声はあっさりと無視されてしまい、首筋から鎖骨へと降りる舌は更に下を求めようとしている。
「こ…コムイさん…っ!」
一か八か、彼の名を呼べば、嘘の様にピタリと止まり、驚いた表情をゆっくりとこちらへ向けると、少し切なげに目を細め、軽く唇を重ねてきた。
「……なんで怒ってるの?」
「えっ。」
見られたくないのか見たくないのか。長身の彼は私の顔を自分の胸に押しつけると弱々しくつぶやく。
正直、返答に困るな。
気にして欲しかったなんて子供じみたことを言うのは恥ずかしいし、何より、散々お互い熱だけを求める様な事を話しておいて、今更心を欲しがるなんて…うまくは言えないけど、重いと思われてしまったら再び触れることは許されないのではと思った。
「怒ってませんよ。」
これは本当。
「ならさっきはどうして…」
「室長こそ…どうしてそんな事気にするんですか?」
我ながら意地の悪いお返しだ。
もうこんな会話はやめましょう?
うろたえるあなたを見たら、そうしたら、ほら行きましょうって、軽く口づけをしてこの部屋を出て行くから。
「…ごめん…わからない…。」
低めの柔らかい声が、彼の骨から体に響く。
ああ、なら、もう…
「でも、君がボクを放って他の人と楽しそうに笑うのが嫌なんだ。」