第3章 まずは触れてから考えよう(コムイ)
「他の男が君に触れるのも、君が笑いかけるのも、話す距離が近いだけでも嫉妬する。」
そんな無茶なと思う反面、熱っぽいその声に確かに胸の内に生まれなのは嬉しさだった。
「今日だって、誰よりも早く君に声をかけたかったし、肩でも頭でも、どこでもいいから君に触れたかった。」
ああ、それは私も。
こうしたかった。
いつもの、上司としてじゃなくて、ただただ、私を見て欲しかった。気にして欲しかった。
ただ、それを恋と呼ぶには自信がないんです。
先に触れてしまったから。
先に求めてしまったから。
そこからくる所有欲な気がしてならない。
絞り出す様に告げた想いを、その人は静かに聞いてくれた。
「所有欲でも何でもいい。ボクも同じだ。ただ、そういう顔は、気持ちは、やっぱりボクだけに向いて欲しい。」
ぎゅっと締まっていた腕が緩まると、どちらともなく顔が引き合う。
互いの欲から始まってしまったこの感情はいつか着地する事ができるのだろうか。
結局どちらも、「付き合おう」とは言わず、このあと部屋を出るわけだけど、無意識に、あるいは意識的に、手を繋いでしまっていたのはまた別の話。
>まずは触れてから考えよう.fin