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そうして君に落ちるまで

第3章 まずは触れてから考えよう(コムイ)








「沙優くんは?大丈夫?」

「え?あ、はい。」


さっきまで抱き合っていたのだから当然といえば当然だが見上げれば室長の顔がすぐそこにある。

咄嗟に崩れた壁側に背を向け、私を守ってくれていたのだろう、少し汚れてしまったその白衣を見ると、胸がきゅっとなった。


「……庇ってくれてありがとうございます。室長は大丈夫ですか?怪我とか…」

「僕も平気だよ。」


良かったと優しく頭を撫でてくれる室長はさっきまでと変わらない。愛しそうに笑う柔らかなその笑顔に、みんながいることも忘れて思わずまた唇を重ねたい衝動に駆られた。


「2人とも!大丈夫だったらこっち出てきてもらって良いすか?!危ないし!」



あっぶない。

班長のお陰でハッとすれば、室長はすっと、何もなかったかのようにそちらへ目を向ける。


「うん、今いくよ。」


そう答えると、長い足が声を投げた方へと進められる。肩は抱かれたままだが、正面から受けていた体温はすっとなくなり、もの寂しさと名残が生まれた。


「神田くん、修行帰りだったんでしょ?とりあえずありがとう。」

「チッ」

「沙優ー!こっち来れるかー?お前の机もヤバいんだわ!」

「えっ?!ウソ?!」

まじ?!と班長と方へ顔を向ければ肩に乗せられていた手が離れ、そのまま背中をそっと、優しく押される。

あんなに近くに感じていた熱があっさりと全てなくなった。さっきまでの愛しさや触れ合っていた事実すら、何もなかったかのようで。


「あららー行っておいで。足元気を付けてね。」


ヘラッと笑って手を振るその人も


あの熱を
あの視線を
あの愛しさをくれた室長とは別人のようだった。


「…はい。」


笑って手を振り返し自分のデスクの方へと慎重に、でも少し早歩きで向かう。




ああ

馬鹿だ。

馬鹿だ私は。



それで良いって。
これで良いって思って触れたのに。


私も彼も、他の人でも良いのかもしれないとわかった上で触れたのに、一体何を期待したんだろう。




…盛ってんのはどっちだよ…。


求める熱があの人でなければいけなかったのか。
少なくとも彼は、私でなくても良かった気がする。


今はただ、本能的に彼と触れ合うことを求めてしまった自分への嫌悪感が膨らむだけだった。









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