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そうして君に落ちるまで

第3章 まずは触れてから考えよう(コムイ)





無言の間。
いや本当に、どうしよう。

扉を一枚隔てた向こうではドンガラわーわー音が響き、話し声も張ったものが微かに聞こえる程度の大騒ぎなのに、この空間だけ、空気が少ないんじゃないかと思うほどに酷く静かだ。


「……よしっ」

隣からそんな声が聞こえ、そちらへそろり顔を向ければ、真面目な顔をした室長がそこにいた。




「仕事を、しよう。」





…………





え?今、なんて?


「だから、とりあえずお互い寝落ちるまで仕事しよう。」

「ジョニーー!!やっぱだめーー!!早く出して!!!」

「どういうことそれ?!」

だって!あの!あの室長が!!

「班長もいないのに自ら仕事しようだなんて気でも狂ったんですか?!」

「君僕のことなんだと思ってるの?!」


驚きのあまりドアにへばりついていると、彼の手に持っている資料でポコっと軽く叩かれる。

あれ?ちょっと怒ってる?
拗ねてるとも呆れてるとも言える微妙な表情。



「あのね、一応この間のこともあるし真剣にお互いのこと考えて言ってるんだよ。とにかく今は頭の中の雑念を消し去りたいの。」

「雑念って…そんな気い抜いたらセクハラしそうなくらい疲れてるんですか…?」


そんなに盛ってるの?
その対象が自分になるということが飛ぶくらい意外や意外。いや、実際この間はアレだったけど、こんな雑なシチュエーションにも耐えられない程なのか?

彼が自分達以上にストレスがたまる役職である事はわかってる。だから、どちらかというとその発散に近い欲情なのかもしれない。

背の高い室長をまじまじと見上げていれば、彼は片手でその顔を覆い深くため息をつく。


「…また下手に触られたくないでしょ?」


でもだとしたら

あの行動が、今、彼を騒ぎ立てている欲情が、ストレスからくるものだとしたら

彼が触りたいのは"私"ではなくただ"女"だ。


でもそれは


なんていうかこう…




「………いやですね。」

「…でしょ。だからほら、さっきの概要の続き聞かせてよ。」



どこかホッとしたように、けれど少し寂しそうに微笑むその顔に、突然胸がキュッとなって、気づけばその白衣に手が伸びていた。








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