第3章 まずは触れてから考えよう(コムイ)
思いの外スッポリとハマってしまい抜け出せないので、軽く身をよじり抜け出したいと意思を示す。
「手外しても騒がない?」
騒がないから。
「ホントにホント?」
ホントだからそれ以上耳元で話すのやめてください。
コクコクと頷けば口から大きな手が離れる。
のは良いがその手はそのままお腹のところへベルトのように回された。
「室長…?放してください。」
「いや…なんか思いの外落ち着くっていうか収まり良くて…」
言われてみれば、さっきから心臓がバクバクなっていることを抜けばどこか落ち着く…
ってそうじゃなくて!!!
「室長、放してください。」
「コムイさんね。敬語もやめて?」
回された手は逆に締まり、耳に微かに柔らかな唇が触れる。瞬間、息とは比べ物にならない感覚がぞくっと体を駆け抜けた。
「…っ」
「もしかして耳弱い?」
この人…完全に遊んでるな…
正直、男の人とここまで密接な距離で、こんなことをされるのは慣れていないのだ。このままだと自分の中で何かが壊れそうな気がしてならない。
「コムイさん…っ放して。」
「……」
体をどうにかよじり、軽く睨みながらそう言えば、キョトンとした顔の上司はあっさりと両手を挙げて開放してくれた。
「疲れてるんでしょ室長。もう自室で寝てください!」
「…いや、うん…。ごめん。」
歯ぎれは悪いがけろーっとしている上司に腹がたつ。こんな風にからかわれて私だけ緊張してるなんて恥ずかしいし、なんだか安く見られたような気がした。
「失礼します。」
「うん…おやすみ。」
淡々とした声の主。その表情から思考は読めない。
今度からはあまり近づくのはやめよう。
心臓の音はまだうるさい。