第3章 まずは触れてから考えよう(コムイ)
「褒められたい…」
「はぁ…」
相変わらず整理の「せ」の字も見えない机に埋もれるその男はぼそりと呟く。
「はぁじゃなくてさ、そこは褒めてよ沙優くん。」
「リナリー呼んできましょうか。」
「違くて…」
重度のシスコンで有名なあの室長がリナリーに反応しないのはこれは如何に。
時計の針は日付を越えてもう一周。資料を届けに来たそのはいいが、熱でもあるのではと上司の額に右手を、もう片方の手を自分の額に当ててみた。
「うーん熱はないですね。」
「違うよ……確かにリナリーに褒めてもらえたらお兄ちゃん頑張っちゃうけどさ、そうじゃなくて…なんかこう…普通に褒められたいっていうか…」
「よーしよし、室長は偉いですねー」
「なんかやだなぁ…」
室長の巻き毛は思ったより柔らかくて、サラサラだった。私より良いのではと正直羨ましくなる。
「室長、この巻き巻き地毛だったんですね。すごい髪綺麗だしツヤツヤ」
「……そのままコムイさんて呼んでみて…」
セクハラじゃないですか?とは言ったものの、髪をいじくり回してる傍、そのくらいは聞いてやってもいいかと結論。
「コムイさん。お疲れ様です。」
あ、これ少し恥ずかしいな。
そう思ったのもつかの間。撫でていた手をガッと掴み室長が起き上がる。
「今の良かった。」
「怖いです。班長呼んできていいですか?」
「ヤローに褒められても何も楽しくないじゃない。」
「どちらかというと説教担当に…っていうか室長もそういう区別あったんですね。」
この人はいつも周りを平等に気にかけている。
だから、いい意味で男女の区別はつけていないと思っていた。
平たく言えば性欲なさそう。
「あのね、僕だって健全なアラサーだよ?」
「班長ーー!!セクハラがここに!!!」
「わああやめてやめて!!まって!」
腕を引かれ、口を塞がれたかと思えばストンと室長の膝に着地してしまった。
「沙優くんが騒ぐからマジモンのセクハラみたいな状況になっちゃったじゃん。」
後ろから、耳元でため息をつかれ、フワッと首に暖かいそれがかかり、ぞくぞくとするその感覚と包み込まれる安心感に心臓が大音量を発している。
あ、これはちょっとヤバいかもしれない…