第8章 猫は紅い血に染まる
「自分の.... 大好きだった.... 人?」
私は言葉をぴたりと止めた。
そんな人いたっけ?
たしかにチャシャ猫は好きだった。
不思議の国のアリスを好きだったのも、全部全部本当の話。
頭のすみにでかかった記憶が、出てきそうで出てこない。
「大好きだった.... 人.... 」
ぼそりと呟けば、甦るのはさっき見た夢。
ちりりんと涼やかな音の鳴る、水琴鈴。
あの小さな少女は....
ビキッ....
頭の中で鈍い鈍い音がする。
「いたっ.... いたい.... あっっっ!!痛い痛い痛い痛い!」
頭の中で記憶に鎖が巻き付く。
あまりの痛さに、ベッドから飛び起きた。
締め付けられるような感覚とピンク色のもやがかかる。
悲しそうな誰かの顔
「あっ!いやぁっ!痛い!いたい!」
私の声で、びっくりして逃げて行くアルが視界の端に見えた。
頭を抱えてぶんぶんと振り回す。
その瞬間....
懐かしい優しい匂いが、私を包んだ。
「思い出さなくていいから!もう思い出さなくていい!」
上から降ってくる言葉....
「....どんな鈴音だって、ここに生きててくれればいい.... それだけで.... 」
消え入りそうな声が耳を掠める。
.... この人を悲しませたくない
胸が痛い....
どうして....?
そんな感情だけが、痛みのなかにはっきりと残っていた。