第8章 猫は紅い血に染まる
「.... ねぇ?頭痛大丈夫?」
その言葉にすっかり忘れていたとでも言いたげな瞳で見つめられる。
やっぱり、過去のことを思い出そうとすることは鈴音にとってかなりの負荷がかかるのかもしれない。
「そんな悲しそうな顔しなさんなよ」
心配そうに見つめてくる鈴音、ほんとゴミだよなオレ
そんな顔をさせたい訳じゃないのにさ....
「.... ねぇ?昔のこと本当に覚えてないの?」
苦しめたい訳じゃないのに、笑っていて欲しいのに....
鈴音に負荷がかかってしまうのをわかっていて、自分を思い出して欲しいということを願うオレは本当にクズだ。
「昔?昔.... ねぇ.... 」
天井を呆然と見つめる鈴音
「....昔さ、不思議の国のアリスの話が凄く好きだったの」
ポツリポツリと出てくる言葉。
「中でもね、一番好きなキャラクターがチャシャ猫だった」
ふふっと楽しそうに話す鈴音の言葉にきゅうっと胸を締め付けられる。
「いっつもニヤニヤしてるんだよチャシャ猫って、ひねくれてるし、でもねアリスのことなんだかんだ言って助けてくれるの。本当はアリスのことが大好きなんだろうなって... 」
聴かなければよかったかもしれない、だって今こんなに胸が痛い。
「私そんなチャシャ猫が大好きだったの.... だから自分の大好きだった人を........ あ.... れ? 」
ぴたりと言葉が止んだ。