第8章 猫は紅い血に染まる
「一松くん... 」
鈴音の消え入りそうな声が耳に届く。
「鈴音、もう.... どこにも行かないで.... 」
オレの目の届く所にいてくれればもうそれでいい....
オレの事を忘れても、鈴音は鈴音だ。
「なんで、そんな悲しい顔してるの」
酷く歪んだ顔が、鈴音の瞳のなかに写りこむ....
嘘をついている。
本当はそれだけじゃ我慢できない。
でも....
でも....
悩みや苦しみで息のできない海底から突然引っ張り出される。
「.... んっ.... 」
初めは何をされたのか全然わからなかった。
奪われる思考....
柔らかい感触、ラベンダーのシャンプーの匂い、さらさらの髪、暖かい手のひら....
その全てがオレを包んだ。
目を見開き、鈴音を見つめる。
あの時、オレの後ろを歩いていた少女はもういない。
オレの目の前にいるのは、美しくなった愛しい女だ。
鈴音はオレにキスをした....