第8章 猫は紅い血に染まる
「今、私のこと馬鹿にしたでしょ」
そう言うと、何故か口元をおさえて後ろを向く一松くん。
.... 笑い堪えてる。
腹立つわー!
「でも.... 綺麗な音だね」
そう言うと、こちらを向きかえり私をじっと見つめる一松くん。
その動きに合わせて、またチリンッと涼やかな音色が耳に届く。
さっき夢の中で聞いた音....
ううん?
もっと昔....
いつだっけ?
聞いたことがあった気がする。
「何処かで.... 聞いたような気がするんだけど、思い出せない.... 」
何かを思い出そうとするとひどく頭のなかがぼやける。
桜の花びらが記憶を覆い隠していくように邪魔をする。
「....アリス」
ドクンッッッ....
心臓が跳ねた。
何処かで聴いた単語が頭をいっきに駆け抜ける。
アリス?
アリスってあれだよね、『不思議の国のアリス』
私はあの話が子どもの頃から好きだった。
眠る前に読んでもらっていた。
そう言えば初めて一松くんに会ったときにチャシャ猫みたいって思ったっけ?
ニヤニヤと笑う顔が、まさにチャシャ猫みたいで....
チャシャ.... 猫?
ズキンッ....
「.... 痛い」
頭がずきずきと痛む。
思い出せそうなのに、思い出せない。