第8章 猫は紅い血に染まる
黒いベッドの上で、鈴音の髪に手をとおしながら、もう片方の手で水琴鈴を弄ぶ。
まだ少しあどけなさが残る顔を見つめながらふっと笑った。
そんなとき微かに鈴音の唇が動いた。
「チャシャ.... 猫.... の.... お兄.... ちゃん.... 」
.... チリンッ
鈴の音を止めた。
.... 今、何て言った?
「ど.... こ....?鈴音をおいてかないで.... 」
............ 嘘だ。
覚えているはずない、僕のことを鈴音が覚えているはずはないんだ。
「どこに.... いるの?」
閉じた瞳から1滴、2滴とあふれでる涙をそっと指ですくう。
「....ここだよ、僕は.... ここにいる」
そっと鈴音の頭を撫でれば、口元をにこりとさせて眠ってる。
本当に大きくなった。
あの時からオレの心を引き付けて放さない小さな少女は、いつの間にか美しい女になった。
「....やっと見つけたんだ」
ずっと側で見守ってきたのに、ある時を境に鈴音はオレのことを呼ばなくなった。
「....鈴音」
こんなにいとおしいと思える者に出会えるのは、後にも先にも鈴音以外はいない。