第8章 猫は紅い血に染まる
チリンッ
チリンッ
何の.... 音なんだろ?
綺麗な鈴の音....?
鈴よりももっと綺麗な音?
ふぁふぁ夢の中、清んだ音色が私の中で響く....
大きな桜の木の上
ニヤリと笑う黒と紫色を纏った猫が一匹。
「.... お嬢ちゃんも物好きだよね?オレに話しかけるなんてさ.... 」
そんなことを言う猫は、少女を木の上から見下げている。
「....オレ怖い人かもしんないよ?」
にやぁっと口角を吊り上げるその姿は、眠る前に読んでもらっていた絵本の中の『不思議の国のアリス』のチャシャ猫にそっくりだ。
いつもいつもニヤニヤと笑っているあの猫と被る。
「怖くないよ?お兄ちゃんはチャシャ猫さんなの?」
その言葉に猫はピタリとニヤニヤを止めて、じとっとした目でこちらを見てくる。
「それってあのニヤニヤした猫だよね?アリスを導く猫だっけ?嫌だな.... オレはそんな上等なもんじゃないよ?」
木の上で手を後ろで組んで、枕にしながら猫はそんなひねくれたことをいう。
「でもチャシャ猫さんは、いつもニヤニヤしてるもん!お兄ちゃんはチャシャ猫さんでしょ?」
むきになっているのだろう、少し涙を滲ませる少女。
そんな小さな少女の言う戯れ言に、その猫はハァッと一つため息をつく。
すとんっと大きな木からなにごとも無かったように降りたって、少女の前に膝まずく。
「そう、オレはチャシャ猫だよ?それで君はアリスだ」
「私がアリスなの?」
小首をかしげる少女
「そうだよ?僕の可愛いアリス」
目を少し細める猫、冷たくて大きな手のひらが少女の頭を優しく撫でた。