第7章 忘却の桜
欲しい....
きっとそう言えば楽になれる。
なのに何故だか口が動かない....
じんわりと熱くなる額が、私を少し正気に戻す。
でも体は熱い、疼く。
視線を落とすと少し尖った折れた桜の枝が目に入った。
必死にそれに手を伸ばす。
ぐっとそれをつかんで、一点に降り下ろす。
ザクッ!
全身の体重をかけて太ももに桜の枝を突き刺した。
じわりと滲む血が、痛みが私をまた少し正気に戻す。
「何してるの!?!」
オーキッドピンクの瞳が、さっと元の黒い瞳へとかわる。
じわじわと桜の枝が赤に染まる。
「血が....馬鹿!馬鹿鈴音ちゃん!」
悲しそうな顔で私の傷口から桜の枝を抜くトド松くん....
キィン....
頭が痛い....
悲しそうな顔....?
前にも何処かで見たような気がする?
何処だっけ?
思い出せない....
風にひらひらと舞う桜が記憶を隠す。
.... 桜?
満月が赤く染まった気がする。
赤い?
夕焼け?
なに?
思い出せない....
でも....
「お兄ちゃん.... どうしてそんな悲しそうな顔してるの?そんな、悲しそうな顔しないで.... 」
何故かそのフレーズが頭に浮かんだ。
私はそれをそのまま口にする。
一気に目を見開くトド松くん。
「鈴音ちゃん.... 君.... は.... 」
トド松くんが何かを言いかけた時に、桜の花びらが一陣の大きな大きな風で空へと舞い上がった。