第7章 忘却の桜
桜の枝が赤く染まる。
「何してるの!?!」
太ももから流れ出す血が、僕の思考を引き戻す。
「血が.... 馬鹿!馬鹿鈴音ちゃん!」
咄嗟に力の解放を緩め、僕は鈴音ちゃんから桜の枝を引き抜いた。
今までここまでいって落とせなかった人間なんていなかった。
なんで....
どうしてこの子には僕の能力が効きにくいんだろう....
いっそ堕ちてくれれば、楽だったのに....
太ももの血を止血しながら、そんなことを考えていると鈴音ちゃんがゆっくりと口を開く。
「お兄ちゃん.... どうしてそんな悲しそうな顔してるの?....そんな、悲しそうな顔しないで?」
ハッとして目を見開く....
桜がひらひらと舞い堕ちて鈴音ちゃんの頬を撫でる。
あの時の顔と同じ顔だ。
「鈴音ちゃん.... 君は.... 」
僕がそこまで言おうとした瞬間、桜が一陣の風に巻き上げられた。
ぶわっと舞う桜の花びらを掻き分けて、ガッと後ろから肩を捕まれる。
とんでもなく冷たい手だ....
ビクッとする僕
やっぱりあの時とおんなじ
「.... ストップ、トド松」
後ろを振り返れない.....
この声の主はきっとものすごく怒っている。
「....オレを怒らせるとか.... 馬鹿なの?トド松?」
ガタガタと体が震える。
本当に怒ると怖いんだよ....
何をするかわからないから....