第7章 忘却の桜
僕は鈴音ちゃんの口を、自分の唇で塞いだ。
人間は嫌いだった。
醜悪で残酷な存在だ。
昔から嫌いだった。
理由は数多あるけれど、これだけ生きていたら嫌なことばかりが積み重なってくる。
男がいるのに僕に言い寄る女、そんな女の汚い血液を啜る自分は、もっと汚いんじゃないかとそんなことを思った時期もあった。
僕は他の兄弟よりも、多く人から直接血を吸ってきたからそのぶん嫌なものをよく見てきたのかもしれない。
だからみんなが鈴音ちゃんを連れてこようと話をしていたとき、口には出さなかったけど心のなかでは反対していた。
紅茶を出したときだって、一思いに毒物でもなんでもいれてやればよかったのに。
でも....
僕のいれた紅茶を美味しそうに飲んでくれていたのを見たときに、心底そんなことしなくてよかったと思った自分がいた。
おそ松兄さんをけしかけたときだって、そうだ。
チョロ松兄さんが鈴音ちゃんをちゃんと助けてくれるって心のどこかでわかっていたのかもしれない。
人間にあんなに酷いことをされたのに.....
なんで僕は鈴音ちゃんを一思いに殺せない?
そんな自分に嫌気が差して、此処で籠ってたら今一番会いたくない人が部屋に入ってきた。
きっとおそ松兄さんの仕業だ。
相変わらず性格が悪い。
肝心な事をなにも言わないで行動する癖は、本当にたちが悪い。