第7章 忘却の桜
一歩ずつ詰め寄られる。
「ほんとさ、どうして人間なんか入れちゃったんだろうね」
どうしてそこまで人間を嫌うんだろう?
「人間なんてさ、僕らからしたらただのエサじゃない?」
冷たい瞳が、ゆっくりゆっくりと近づく。
「汚くて、醜くて吐き気がする」
桜の樹が私の背中にストップをかける、もう逃げ場はない。
怖くないと言うなら、それはきっと嘘。
でも感じる違和感はますます強くなる。
「嘘つき」
咄嗟に出た言葉にトド松くんは、目の前でピタリと足を止める。
「ドレッサーにあった化粧品用意したのトド松くんでしょ?」
何も言わず私を見つめるトド松くん、無言の肯定だ。
「私、昔から肌が弱いから化粧はしなかった。でも用意されてたやつ、全部肌に優しいやつだった。」
ばっと開けてすぐ閉めたドレッサー。
でもすぐにわかった。
化粧なんてしたことはなかったけど、私だって一応女な訳だし興味がなかったわけじゃない。
化粧品をたまに見たときに、肌が弱い人でも使えるものを眺めては商品棚に戻していたから。
「人間嫌いなくせにそんな優しい気遣いができるんだね、しかもあんなに沢山.... 」
いったい誰がこんなに使うんだろうと思ってしまう量の化粧品。
でも本当は嬉しかった。
「ありがと....トド松く.... 」