第28章 初雪は淑女と共に
ストンと小さな音と共に、レディが地面に着地する。
「カラちゃん」
「ん?どうしたレディ?」
もじもじと何かを言いたげな瞳で俺を見つめる。
どうやら小さな頃から誰かを見つめるのはレディの癖らしい。
人によっては少々心臓に悪い気がするのをずっと思っていた。
「なにか言いたいことがあるのか?」
「あ、あのね?抱っこは恥ずかしいけどね、その、手は、手は繋いでて欲しい」
小さな手を遠慮がちに出そうか出すまいか迷っている姿に、胸がきゅうっと締め付けられた。体格差の為、必然的に上目遣いになってしまっているままそんな事を言われてしまった。
昼間は普通に手を繋いでいたのに、どうやら今は恥ずかしいらしい。
女心とは、わからないものだ。
そんなことをうんうん悩みつつレディを見れば、子猫のような瞳で俺を見つめている。
なんだこれは、よくわからないが苦しい。
苦しくて苦しくてたまらないんだが。
「あ、ああっ!好きなだけ繋いでくれ!」
ズボンで何度か手をふいて、さっと差し出す。
差し出した手をとってレディは笑う、とても嬉しそうにフワリと笑う。
繋いだ手は暖かく柔らかく、このまま何処へでも行ってしまえそうで怖い。
「カラちゃん、観覧車乗りたい!」
遊園地の外からでもわかるほど、1番美しく輝く乗り物を指さしてはしゃぐレディ。
「ふふん、もちろんだレディ!だが、他にも沢山見どころがあるぜ?先に観覧車に行ってしまっていいのか?」
「たしかにそうだね!えー、迷うなぁ!どれがいいかな?」
「レディが望むなら、どれでも好きな所に行っていいぞ?」
その一言に咲くのは花か、光か、どれとも形容し難いほど眩しい笑顔。
歩き出す先でチケットを買い、1歩遊園地の中に入ってしまえば繋いだ手はぎゅうっと強くなる。
「うわぁぁ!カラちゃん!あれっ!!あれがいい!」
あぁ、なんてなんて俺は幸せなんだ。
レディのこんな素敵な顔を見れるんだから、俺は幸せだ。
「ふっ、いいだろう。このカラ松、レディの為なら例えジェットコースターだろうが船だろうが...」
そう答えた矢先にレディの指さす方で、とんでもない断末魔が聞こえてきたんだが気のせいだろうか?