第27章 白無垢よりもウェディングドレスよりもタキシード!?
ごぼっごぼっという音が耳の中でこだまする。
溺れていく感覚の中で、四肢に感じる柔らかい何か。
水を怖がるようにそっと開けた目に飛び込んできたのは、見知った顔だった。
「...みんな」
同じ顔の3人がそれぞれ心配そうに瞳を揺らして私を見つめている。
「う」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら第一声を放つトド松くん。うってなんだ、うって。
「う?」
語尾にはてなマークつけながら首を傾げた瞬間、大っきい声が鼓膜を破るかぐらいにひびいた。
「よかったぁぁあぁ!!」
長い袖とともに首元に抱きつかれて、そのまま体制を崩して暗い空間に落ちていく。太陽の香りがぶわりと私の鼻腔をかける。
春の日向の匂い、干したてのお布団の匂い。
その人の匂いはこんなにも私の心を柔らかくする。
けど、抱きつかれた拍子に首からなっちゃいけないような音がした。
ばきって、バキってね。
抱き着いてきた相手が間違いなく十四松くんとわかっている以上、首から危険な音がなろうが鼓膜がいってしまおうがせめられるわけもない。
私は純粋な彼に弱いのだ。
「十四松くん、心配かけてごめんなさい」
「よがっだぁぁ!ほんどーにほんどーに!」
グズグズと鼻水をすする音が耳元で聴こえてくる。
どうやら相当心配をかけてしまっていたようだ。
そんな中、じとっとした顔でこちらを見つめるもう1人の存在。
三角座りをしている彼とパチりと目があったが、ふいっと違う方向を向かれた。
「ほんと、よかった」
泣いてこそしてないが、明後日の方向を向きながらそう言った低い声。
本当はとても心配だったんだろうなと、容易に想像できてしまう。
「心配してくれて、ありがとう」
ニコッと笑って言ってみれば、カッと目を見開き右往左往に瞳が揺れている。
「ちょっと、僕の存在忘れてない!?」
何もない空間の中で、ふわふわと漂っている甘い香りの持ち主はぷっくりと頬を膨らました。