第27章 白無垢よりもウェディングドレスよりもタキシード!?
「強情な人...」
美しく整った小さな唇からこぼれ落ちた言葉にハッとした。
目の前の綺麗な紅。
おそ松の瞳に似た色に、切なげな表情が重なる。
美しいという言葉をそのまま体現した様な。
恐怖を通り越して見惚れてしまうのは、頭に血がまわっていないせいだろうか?
「お狐様?」
艷めく唇から零れる言葉さえも切なげで、胸が痛い。
この表情、どこでみたんだろう?
過去に1度見たことがある。
切なくて切なくてたまらなくなる。
あぁ、そうだ。
トド松くんを見つめるアザゼルに似ているんだ。
「貴方は...美しいです、とても...私が触れるのもおこがましい」
柔らかく微笑んで吐いた言葉は嘘も偽りもなく真実だ。
こんなに真剣に思ってくれているというのに、私は嘘つきだ。
私が男だったなら、この美しいヴァンパイアを愛せたかもしれない。
けれど現実は違うのだ。
今の私は幻想にすぎないのだから。
私の言葉に頬を赤く染めながらも、悲しげに揺れる。
不安定な紅を見つめていれば、頚動脈に伝う白い指の本数は増えていて。
ついには首全体を覆い尽くした。
「綺麗な綺麗なお狐様、自分のものにならないならいっそ...」
あぁ、ここで終わるのか。
それもそれでいいかもしれない。
美しくて可愛い人。
どうか私をその手で殺してくれ。
そっと目を瞑る。
梅の花の香りよりも甘い香りに骨抜きにでもなってしまったんだろう。
もうししおどしの音はピクリともしない。
逃がさないとでも言われたように体重をかけられ、畳に落ちていく。
「本当に強情な人」
冷たい紅い瞳。
梅の花よりも濃く、血の色よりもずっとずっと濃い色。
倒された身体は紅い瞳に見つめられているためか、ピクリとも動かない。
甘い毒というやつか。
苦しいほどに切なくなる。
微かに感じる首筋の熱はなんなのだろう?
思考がまとまらない。
「馬鹿な狐...」
冷たい言葉とは裏腹に切なげに紅がゆれ、梅が散った。