第27章 白無垢よりもウェディングドレスよりもタキシード!?
死ぬ。
ごくんと唾を飲み込む音が聞こえる。
その音は鈍く自分の中で響いて、私の中に落ちていく。
いつの間にししおどしはならなくなったのだろう?
ただ自分の中の水分だけが、よく聞こえるのだ。
紅い梅の花が1枚、2枚と白い着物に落ちる。
先程も思ったけれど、白の上の紅は本当に鮮やかで、酸素を沢山含んだ血液のようだ。
あぁ、もっと美味しいものを沢山食べておけばよかった。
最後の最後で思うのはやっぱりいつもと同じ平凡な台詞だけだ。
甘い香りが鼻腔を抜ける。
とびきり甘い花の香りだ。
トド松くんも甘い香りをしていたけれど、それよりももっと甘い女の人の香り。
「...お狐様、お名前を」
伸びた白い指が、ゆるゆると頚動脈のある場所を撫でていく。
ほんのり冷たい指先、撫でられるとゾクリと身体が震えた。
「...言えませ...ん」
頚動脈から少しづつ上がって、ゆっくりと唇に伸びてくる細い指。
指の腹で唇を撫でられはぁっと息を零す。
この感じ、どこかで...。
血が足らない。
頭へ向かうはずの血を、止められているかのようになにも考えられなくなる感覚。
トド松くんの力に似ている。
チラリとトト子姫を見れば、微かに瞳の色が変わっている。
なんて綺麗な紅い色だろう?
おそ松の瞳の色とよく似ていて、なんだか親近感がわいてくる。
するりと自分の手をトト子姫の頬に置いて、フッと笑った。
これで最後だろうか?
なんともあっけない最後だ。
けれど、松坊ちゃんを守れるならばそれもいいかもしれない。
トト子姫の瞳の色と香りに、おそ松とトド松くんを思い出す。
あの馬鹿のせいでこんな事になったのに、でも私にとっていつの間にこんなに大切になってたんだろう?
甘い香りにあざとい彼を思う。
最後に話した相手だからよけいだろうか?
なんだかんだと心配してくれたっけ、初めの頃よりもずっと仲良くできたかな。